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ロスト・イン・トランスレーション
投稿者: Urabancho 掲載日: 2004-9-28 (3545 回閲覧)
「サントリー・タイム!」「高級ウイスキーなんですよ、響!」とさんざん連呼したおかげか(どうか)、先ごろ英国で行われた「第9回インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ」で、サントリーの「響30年」が最高の「トロフィー賞」を獲得。その授賞式が23日に行われた。同コンペは、スコッチウイスキーの本場で、英国の酒類専門出版社の主催により各国の酒類メーカーが品質を競うもの。日本のウイスキーが最高賞を受賞したのは初めてという快挙だ。

それはさておき。「眞木さんが出ている」と言われながらも観に行かなかった、『ロスト・イン・トランスレーション』のDVDが12月に発売される。眞木準さんは日本を代表するコピーライターで、『一語一絵』『例のない遠い国』『コピーライター』など著作も多数ある。映画や本と違って広告コピーはその時だけのものだが、本として残しておくだけの価値がある素晴らしいコピー、ネーミングをたくさん生み出している人なのだ。先日、米国版を観る機会があったが、CMの撮影現場にボブ(ビル・マーレイ)が入る際、クライアントの一人としてチョロっと出ていた。チョロっとだけど、ちゃんとこちらを向く演技をして映っていたのだから「出ている」と言ってもいいか…。

「ロスト・イン・トランスレーション」とは、翻訳の過程で意味やニュアンスが失われるというような意味だ。米国版なので日本語字幕無しで観たわけだが、日本が舞台で日本人との会話が多いから、英語が得意ではなくても状況と話の展開は容易に想像がつく。しかも日本語のセリフ部分も英語字幕は入らないので、日本映画を観ているような錯覚に陥る。しかし、英語のセリフに日本語字幕が入らない…不思議な感覚。聞き取れる単語と表情から、意味やニュアンスを理解しようと努めることに。

映像は少しアンダーめの落ち着いた色彩でとても親しみやすい。ほとんどのシーンがディフューズ光での撮影だ。早朝や夕方、日中でも雨や曇りの日、晴れていてもビルの谷間などの日陰が選ばれていおり、被写体を巡る柔らかい光が「霞んだ」風景を生み出し、浮遊感、孤独感、もやもやした心情をうまく演出している。フィルム撮影にこだわり、少ない光量でも撮影できるハイスピードフィルムを用いたそうだが、それも一役買って湿気を帯びた日本独特の空気感を表現していた。この、幻想的とも映る「霞んだ風景」こそが、日本の原風景ではないだろうか。また、街を歩くシーンの撮影は、持ち運びに便利な小型カメラで行っているそうだ。それらが功を奏し、スナップショットを見るような、親近感のある仕上がりになっているのだと思う。どこまでが狙いで、どこがハプニングかはわからないが、監督ソフィア・コッポラの写真家としての才能発揮といったところか。ただの「旅行者」の目でとらえた映画ではないようだ。

ベタな観光名所、「L」と「R」の発音が下手な日本人、エッチな漫画を人前で平気で読む大人…。よくある“日本の姿”は片腹痛いが、ソフィアがかなりの日本通であることがわかると違和感ない。これは日本ぢゃない!と思う場面もあったがこれもパロディなのか…笑えない自分の教養のなさに少し落ち込む。しかし、パロディやジョークが随所にちりばめられ、意味やニュアンスがわからなくても楽しめたシーンが多い。これはビルのおかげ。本当に表情だけで伝えることのできる俳優だ。しかも、スカーレット・ヨハンソン演じるシャーロットは、セリフが少ないが、目、唇、表情の演技だけで心情が伝わってくる。

TOKYOは無国籍都市などといわれるが、この映画こそ良い意味で無国籍。英語の分からない人も、日本をよく知らない人も、英語も日本語もわかる人も楽しめる映画ではないか。字幕なしでも十分に楽しめた。意味がよく理解できなくても、それを補う要素がたっぷりある。

脚本も素晴らしい。たまたま日本に短期滞在者することになった二人のアメリカ人の物語だが、ただそれだけではない。日本人同士なのに真意が伝わらず(理解できず)もどかしい思いをしたことがあるだろう。二人で居るのに孤独感を感じた経験のある人もいるだろう。そんな心の揺れが抒情詩的に書き上げられており、異国での疎外感を経験したことのない人でも、共感できるのではないだろうか。そして、スカーレットが繊細にそれを演じているのだ。脚本はビルを念頭において書かれたらしいが、この映画はスカーレットが主役だ。そしてビルなくして成立しない。必然のキャスティングだ。

なんて「ぶった」話はおいといて、夜遊びシーンに登場する日本人はソフィアの友人たちだそうで、そのほかにも日本の有名人が多数出演している。ロードショーを観た方、知ってる顔、知ってる場所はいくつありましたか? はっぴいえんどの“風をあつめて”と、HIROMIXのアップは要らないなーと思ったが、見終わった後にアメリカのコメディ映画だったことに気づく…これもパロディなんだ。アメリカ人の失笑を誘っただろう。あのラストシーンのまま終わると「ただそれだけの物語」になっていたか。

以上は米国版を観た英語の分からない日本人の感想である。日本版DVDが発売されたら是非もう一度観たいと思った。日本版のジャケットはまだ見ていないが、米英版はDVD、サントラ盤とも「有名な」ビル・マーレイが使われている。一方、日本のサウンドトラック盤のジャケットは、シャーロットが映ったポラロイド写真風のデザインで、映画の雰囲気がうまく表現されている。映画を観た人は思わず手に取ってしまうも、映画を知らない人に単なるサントラ盤とは思わせない良いデザインだと思う。ちなみに映画のポスターではスカーレットが使われていた。さて、DVDではどちらが採用されるのか。ジャケットのデザインが楽しみだ。

また、『ロスト・イン・トランスレーション』の翻訳センスももう一つの楽しみでもある。英語の文章をちゃんと日本語に訳すと1.5倍の量になるというから、翻訳は難しいのだと思う。英語のわからないものにとって、字幕は映画が楽しめるかどうかが決まる重要な要素だが、字幕としての「適当な長さ」があるので、意味やニュアンスがうまく伝わらない場合もある。おまけに字幕版は絵を見ながら文字を読むので、もどかしい。日本版には字幕版と吹替版が用意されているから吹替版を観ようか。いや、字幕版を観てから吹替版を観て、また米国版を観れば4度「体験」できるかもしれない。

いずれにしても、それだけ観てから疑問だったことを聞いてみたい。なんといってもギョーカイの強者たちが制作をサポートしているわけだから、「これ、偶然かなぁー」と疑うカットも多い(深読みしすぎ?)。そして、別れの時、ボブはシャーロットになんて言ったのか。
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