勉強も仕事も、やる気がなければ捗らない。人は「気持ちがよい」とか「快感」を求めることが行動の重要な動機になる。このような快感が生じる仕組みである、脳内の「報酬系」について調べた。
報酬系は、人の脳において欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快感の感覚を与える神経系である。人が快楽を感じている時は、脳内で快楽物質のドーパミンやエンドルフィンといった脳内ホルモンが分泌され、報酬系として作用する。ドーパミンは向上心やモチベーション、記憶や学習能力、運動機能に関与する神経伝達物質である。ドーパミンは行動しているときに分泌されて覚醒効果があるのに対し、エンドルフィンはドーパミンが分泌された後に分泌される、ストレスなどを癒す効果があるホルモンである。
報酬系の経路としては、ドーパミン分泌が関係する、中脳辺縁系を中心とするA10神経系(中脳皮質ドーパミン作動性神経系)が知られている。A10神経系は、前頭前野(理性)・扁桃体(感情)・帯状回・視床下部・側坐核(快感)・海馬(記憶)などと繋がっていてドーパミンを伝達しており、A10神経系に興奮性のグルタミンを送る前頭前野と、抑制性のGABAを送る側坐核によって制御されている。
ドーパミンによる快感を感じる中枢は側坐核にあるとされるが、楽しいことややりたいこと、達成したことなどを理性的に思考して理解する中枢は前頭前野にある。そういった楽しかったことや成し遂げたこと、やる気が出たことなどを記憶する中枢は海馬にある。ドーパミン神経のA10とそれらの大脳の各部位が相互に連携し、情報をやり取りし役割を分担することによって、報酬系の機能的なニューロンネットワークが成り立っているということになる。
神経伝達物質は、他にもノルアドレナリンやセロトニンがある。ノルアドレナリンは、物事への意欲の源、生存本能を司り、ストレスに反応して怒りや不安・恐怖などの感情を引き起こし、交感神経を刺激して心身を覚醒させる働きがある。また、ノルアドレナリンが分泌されると、ストレスを解消するために快感を得ようとドーパミンが分泌されやすくなる。ストレスは食事や運動で解消(麻痺)できるが、ドーパミンは、欲望や渇望という形でストレス生み出してしまうため、ドーパミンが過剰に分泌されると、法を犯してでも目的を達成しようとするなど、間違った方向へと進んでしまうかもしれない。そのため、セロトニンが、ノルアドレナリンによる身体の興奮を鎮静している。セロトニンは、精神を安定させる役割を担い、咀嚼や呼吸、歩行といった反復する運動機能にも関与している。セロトニンにはドーパミンの働きを制御する役割もある。ドーパミンによる快感だけを追い求めると、際限なく満足できない状態になるため、ドーパミンの働きにブレーキをかけて、正常な精神状態を保つのである。
報酬系は、大脳の各部位が相互に連携し役割を分担しながら機能的に働いており、中枢系で働く神経伝達物質も、抑制し合いバランスを取っている。社会という枠組み生きるためには、社会に参加するための意欲や積極性、そして時には節度を守るための自制心や平常心、判断力が必要である。そのためには、報酬系をバランス良く保つ必要があるということだろうか。