ティティモンキー(Titi Monkey)は、南アメリカ北部の水辺の林に生息する小型のオマキザル類である。 基本的には果実食であるが葉や昆虫も食べ、木の低い所を利用して地上にはほとんど下りない。大人の雄と雌各1頭、それに1、2頭の幼い個体からなるペア型集団が、大きな声を発して独自の縄張りを保って生活する。大型化すると少し個体数の多い群れを作る。集団の基本型は母系・父系集団両方がある。
特徴は、父親が授乳以外の一切の育児を受け持つ“育メン”であること。赤ちゃんを背負って一日中歩き回るのはもちろん、毛繕いやお尻の清掃から、天敵への防衛まですべて行う。そして母親が十分お乳が出るよう、食物は最優先で母親へ提供する。こうした父親の育児は、出産に立ち会うことで、赤ちゃん誕生とともに始まる。また、利他的行動も取る。このティティの特性を生かした、社会性に関する新たな研究の展開を模索したい。
このティティは核家族であることから、社会性を研究するとしたら三世代同居が可能かどうかである。マーモセットも父親は育児参加するし、将来の収穫を見据えた行動を取る。他者への思いやりもある。そのマーモセットと同じ実験は、隣の集団と出会うとペアで鳴きながら縄張りを守るティティでは無理だろうが、血縁同士なら大家族が築けるかもしれない。
目的は、人の社会性と核家族・三世代家族・拡大家族との関係で、新たな知見が得ることである。人間の赤ちゃんは、母親が抱き続けず、地面に下ろされても生きていけるよう体温が保持されている。そして、仰向けにされた赤ちゃんに母親だけでなく父親や祖父母、兄姉、叔母がのぞきこみ、微笑みかけ、手を振り、声をかける。人間の子どもは、親や仲間との対面のコミュニケーションで育まれる。これが社会性を推進する一つの要因である。猿の子育ては、霊長類に普遍的な「しがみつく」「抱きしめる」という親子関係であり、基本的には母親だけが子供を育て、ほかの仲間の関与が小さい。しかし、周囲に他の猿が居れば、徐々に群れの中に溶け込んでいくのである。
実験方法は次のようなものを想定する。複数の施設を作り、それぞれの施設内は行き来できる通路を設けておく。子離れが近づいた親ザルに、別の家族の生まれたばかりの子ザルを与える(自分の子供と入れ替える)。ティティが他の猿の利益のために、報酬を期待することなく自発的に子ザルを気遣う行動をとるか観察したら元の家族のもとへ戻す。以上の作業を繰り返す。
実験の結果は、独自の縄張りを保って生活する習性から、ティティに社会性は無いことが推測される。ティティが示す愛他的行動は、人間が勝手に他者への気遣いを想像しているだけと思われる。出産から立ち会う雄は、雌や子ザルの臭いなどで本能的に育児行動を取っているだけで、他の子ザルは遠ざけるだろう。しかし、別の子ザルが入れられたとき親離れが近かった子ザルは、成体したときに他の子ザルを構う可能性がある。施設間をつなぐ通路を使い、他の家族との交流を行うかもしれない。どんなに縄張り意識が強く利己的な種であっても、幼児期の体験により成体になったときの社会性が育むことができる裏付けとなるのではないか。